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PyCon mini Hiroshima 2019参加記録 ―「Pythonでアルゴイレイヴの世界に足を踏み入れる」の裏話 ―

先日10月12日にPyCon mini Hiroshima 2019で講演をさせていただく機会を得ることができました。台風による危険が迫りくる中、足を運び講演を聴いてくださった方々には貴重なお時間を割いていただいことを大変感謝しています。

さて、早速PyCon mini Hiroshima 2019についての個人的な感想というか裏話を。今回で4回目の開催だったわけですが、私は昨年に引き続きスピーカーとして参加させていただきました。ちなみに昨年は「Introduction to Data Science in Python (Visualization ver.)」という題目でデータサイエンスの中でも可視化に着目した発表をさせてもらいました。データサイエンスという言葉が軽やかに時代の波に乗る華やかな言葉として用いられはじめてしばらく経ちましたが*1、データサイエンスの中でももっとも基本的なプロセスである探索的データ解析(EDA)はこれから迎えるであろう世界 ― データがより重要になってくる世界 ― に住む我々にとっては避けて通れないものになるのではないかと思い、そのような発表をしました。昨年に関しては、参加者に一切知り合いがおらず、過去の発表動画を漁ることで対策を立てることしか出来ず、どのような発表をすればよいのだろうかと大変思い悩んだことを覚えています。結局、私自身が長らく日本語を読めない、話せない、あるいは書けない外国の方たちと関わることが多かったので、スライドはいつものように英語で作成しました。また、プログラミングのカンファレンスだということでコードを中心に説明することを努めました。しかし、これらのアプローチがよくなかったのか、懇親会では「難しかった」と言われてしまい、「アプローチを間違ったな」と一人反省をしていました。データサイエンスをやっていく人たちにとってはこれから当たり前のように使われていくのではないかと私自身が思っているPlotlyおよびPlotly Dashについても、Pythonをデータサイエンスのために使っているわけではない方たちにとってはあまり有り難いものではないようだ、ということも大きな発見でした。

さて、では今年はどうしたのか。今年の発表に関しては、昨年の反省から、ずっと「分かりやすいことをやろう」と決めていました。ではどういうことをやるのか、と考えたとき、いくつか候補が上がったのですが、音に関するものにしようということをわりと早い段階に決めていました。幸いというのか、もしかしたら少しズルいのかもしれませんが、今年はスタッフとしても参加していたので基調講演者が誰になるのかということを早めに知ることが出来ました。基調講演者の磯さんの昨年のPyCon JPでの基調講演および過去の発表を再度眺めてみて、音や視覚に関する発表が多いことに気付きました。また、PyCon mini Hiroshimaの座長の西本さんが音声に関わる研究者であったり、スタッフにも音声の研究に関わっている大学院生の方がいたので、統一感が出るかも知れない、と思い音に関わる発表にすることを決めました。

そんな「音に関すること」という漠然としたアイデアがアルゴレイヴにつながったのは、講演の中でもお話させてもらったように、4〜5年前のオンライン講義からの伏線がありました。どこかでお話できたらと考えているのですが、私は大学生の頃からたくさんの講義に出て可能な限り広い分野のことを学ぶことが好きでした。そんな私が2012年頃に「オンラインで海外の大学の講義が受けられる」という情報を聞きつけ、始まって間もなかったCourseraに没頭しはじめたのは私にとってはとても自然なことでした。そのCourseraで講師をしていたMatthew Yee King博士の講義が大変面白かったので「何をやっている人なのだろう」と調べていたところ、Algorave(アルゴレイヴ)という言葉に出会ったというのが私とアルゴレイヴとの出会いです。また、修士過程のときに在籍していた研究室のPIの先生がメディアアートの文脈で音楽をやっていたことを考えても、アルゴレイヴのようなコンピュータと親和性の高い音楽に興味を持つに至ったことはとても自然なことだったのかもしれません。

さて、アルゴレイヴと出会ったものの、実際にそういうことをやろうと思っても多くの障壁がありました。例えば、音楽についてド素人であるということ。学校で音楽の授業があり勿論出席はしていたのですがちっとも面白いとは思わず、音楽は聴ければ十分だと思い、音楽の授業はサボる対象になっていた記憶があります。*2また、Max/MSPSuperColliderのようなソフトウェアは馴染みがなく、FoxDotが登場するまではなかなかライブコーディングを行うこともままならない状況でした。そんな人間が、公の場で音楽のことを話してかつライブコーディングもやってみるということになってしまい、これは大変だと音楽理論の初歩的な本を漁り始めたのは恐らく9月のはじめ頃のことでした。既にFoxDotを使って自分の好きな音を出して遊んではいたのですが、殊公の場で多くの方に聴いていただくものである以上あまりにも自身の好みが強いものは避けなければという思いが強く、音楽理論を学んでより多くの方にとって聴き心地のよいものにしようと考えました。しかし、時間もなく焦っている中、某勉強会で講演の話題になったときに「まあ、好きな音楽をやるのはそれでそれでよいことだ」というような趣旨の言葉をもらったので、「じゃ、いっか」と開き直り、音楽理論に基づいたものや多くの人にウケそうなものではなく、割と自身の好きな雰囲気のものを発表に使うことにしました。

結局、9月の半ばには「これはもう無理かもしれない」となっていた私ですが、9月中旬に開かれたPyCon JP 2019にエア参加*3してみて楽しかったので一気に元気が戻ってきて、なんとか準備を頑張り、当日を迎え、発表を終えるに至りました。実際にやってみた感想としては、まあ悪くはなかったのではないか、というものです。昨年とは違い質問もたくさんいただきました。発表後にも質問をしていただきましたし、懇親会でも「アルゴレイヴやりたいです!」と話しかけてくれた方々とお話できました。発表の最後を「Let's Get Started!」という言葉で締めたのですが、この言葉には「今から始めようぜ!何かやってみようぜ!」という強い気持ちが含まれています。かつてPythonでコードを書くことがままならない時期に参加したPyCon mini JPやPyCon JP 2011では私は基本的には発表者の話を聴くだけで精一杯でしたが、興味を持った発表に関しては家に帰ってから自分で手を動かしてみたりはしていました。*4そうした能動的な経験を積み重ねることでようやく少しずつPython(およびプログラム)が書けるようになり、カンファレンスでお話しても問題ないのではないかという程度のことができるようになったように感じています。私の発表を聴いたことで「何かやろう」と思ってくださる方が一人でもいてくだされば、私が費やした時間も労力も無事報われたことになります。能動的に、積極的になにかをしようと思った方々に楽しい未来がやってくることを願いつつ、私の拙い裏話は終わりにさせていてだきたいと思います。*5

*1:データサインスという言葉が多く使われるように前はデータマイニングという言葉が頻繁に使われていたことを記憶しています。データサインエンスとデータマイニングは同じものではないのかもしれませんが、わたしには一種の進化のようなものとして目に映っています

*2:子供の頃から数学と国語が好きで、数学と国語に関しては例え授業がつまらなくても面白いものを見つけては進んで勉強していたことを思い出しました。

*3:YouTubeでの配信をずっと見ていました。

*4:実は今回の基調講演者の磯さんの講演にかつて参加しており、家に帰って「やってみた」というブログを書いたところ、磯さんご本人からコメントをいただいたことがあったのでした。そのときのお礼を8年越しに出来たことも今回のカンファレンスの収穫でした。

*5:カンファレンス全体の感想やスタッフとして参加してみた感想も書きたいのですが、残念ながら私のキャパ不足で難しそうです。どの発表もすばらしいものばかりで、一参加者として大変楽しむことが出来たということだけは記しておきたいと思います。